
TALK 02
医療を軸にした新たな挑戦
セコム医療システムの
インド事業とは?
2014年、セコム医療システムはインドに総合病院「SAKRA World Hospital(サクラ・ワールド・ホスピタル)」を
開院しました。インドで事業展開をすることとなった背景、日本とは異なる医療状況への対応、さらに将来的な構想
まで、本事業に携わる3名の社員の座談会を通して迫ります。
〈 インドから参加 〉
-
長野 祐一
1997年入社
タクシャシーラホスピタルズ
オペレーティングPvt.Ltd./
代表取締役社長
兼 セコム医療システム株式会社 専務取締役 -
小山 裕
2004年入社
タクシャシーラホスピタルズ
オペレーティングPvt.Ltd./部長
〈 本社から参加 〉
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牧 卓
1999年入社
セコム医療システム株式会社 常務取締役 兼
企画本部/本部長
※本座談会は、インドと日本をオンラインでつなぎ開催しました。
インドで事業展開をすることになった経緯について教えてください。
長野
日本で培った病院運営支援の知識やノウハウを活用し、質の高い医療サービスを海外で提供することを意図して、2000年代初めから進出先の検討を始めました。その中で、人口の多さに対し質の高い医療サービスへアクセスできていない国として、インドに注目したのです。
小山
2014年には豊田通商および現地の財閥と3社合弁で運営会社を立ち上げ、インド南部のバンガロールに総合病院「SAKRA World Hospital」を開院しました。その後、2016年にインド現地財閥とは合弁を解消し、以降は2社で運営を継続中です。
牧
私はこの事業の立ち上げから携わっているのですが、当時もっとも苦労したのは、現地財閥とのコミュニケーション。会社を運営するガバナンスやカルチャーが日本とは異なり、戸惑うことが多かったのです。
こうした違いは「インドだから」というわけでなく、海外での事業展開においては避けられないと感じています。
長野
また、インフラの不安定さには現在も苦労していますね。とくに開院当初、インドでは停電が毎日起きるような状況。そうなると手術中でも医療機器が停まってしまうため、非常用の発電機を常に稼働できるような状況にしておかなければなりませんでした。

現在のインドにおける医療状況について教えてください。
牧
インドでは、全人口の70%を占める農村部において医療資源が不足しています。また、救急車を要請してから到着するまでの平均時間も40分超と長く、急性心筋梗塞や交通事故など、重篤な患者の生存率が現状低くなっています。
長野
また、保険制度が整備されていないことも課題の一つです。医療サービスを受けると現金払いになるため、病院に足を運ぶことをためらう人も少なくありません。ただコロナ禍を契機に、都市部では保険加入者が増えてきてはいますね。
小山
一方、インドの医療のポジティブな面としては、医師のレベルや医療システムを開発する技術力が高いことが挙げられます。インド事業と聞くと日本の医療技術やシステムをそのまま横展開するやり方を想像する方が多いですが、私たちが目指すのは日本とインドのいいところを持ち寄った病院をつくることです。
長野
小山の話す通り、インドの医療に日本の医療を溶け込ませて、今のインド社会にない病院をつくっていくことが、私たちの使命だと考えています。
事業を進める中で、印象に残っているエピソードについてお聞かせください。
長野
SAKRA World Hospitalは日本国内の21の医療機関と提携し、さまざまなコラボレーションを実施しています。インドの看護師を定期的に日本の提携病院に派遣することもその一つ。日本の病院で1〜2週間働いた看護師たちは、「いろいろな気づきがあった」と感動して帰国しています。
小山
一番の感動ポイントはホスピタリティだそうです。「日本人マネージャーがいつも言っている看護のあるべき姿が、日本では本当に実践されている」と、日本での経験を経て得た気づきや、仕事への向き合い方が変わったことを話してくれる看護師が多いです。
牧
インドでは、看護師の離職率が60〜70%に上ります。これまで、2年経つと管理職以外の人材が全て入れ替わるような状況が常でしたが、日本の提携病院への派遣を始めてからは看護師の定着率が上がりました。
小山
インドには前向きで独創的な人材が多く、宗教や言葉が違っても受け入れ合う懐の深さがあります。仕事をする中で、そのような面に助けられることもしばしばありますね。
長野
コロナ禍は特にそうでした。インドでは2020年6月頃から感染が拡大し始めましたが、当時SAKRA World Hospitalでは「患者は誰も断らない」という強い使命感を持ち、延べ5,800人以上のコロナ患者を受け入れました。さまざまな職種の従業員たちが知恵を出し合ってくれたおかげで、職員の感染リスクを抑えながら、コロナ患者の治療のため一体感を持って取り組めたと思います。

インド事業の今後の展望について教えてください。
長野
将来的に目指しているのは、垂直統合によるシームレスな医療提供体制の構築です。簡単に言えば「いつでも・どこでも・誰にでも」適切な医療サービスを提供できる体制をつくっていくことですね。急性期→回復期→在宅と切れ目のない医療サービスを提供できるような医療グループは、インドにはまだ存在していないのです。
小山
現在、バンガロールに2つ目の総合病院を建設中ですが、そちらの病院も含めて、まずは病床数1,000床程度の医療グループになることを目指しています。並行して、インド国内外のスタートアップ企業や既存企業とともに、オープンイノベーション方式で、医療AIにICT事業を掛け合わせた開発にも取り組んでいます。
牧
これらを実現するためには、看護師の確保が重要課題。2024年からバンガロールの看護学校と提携をスタートし、SAKRA World Hospitalが実習の受け入れ先となって、卒業した看護師を採用する体制を整えているところです。優秀な看護師が集い、よりよい医療サービスを提供する一助になれば、嬉しく思います。
長野
今後、看護師の交流がさらに深まることで、日本人のドメスティックなスタンスが、インド人の前向きで独創的な感性によって開けていく、といったことも起こり得るかもしれません。海外との協業は、こうした新しい風を取り込む絶好の契機なのだと感じます。当社のインド事業は、グローバルな視点を養うためのさまざまな経験ができるはずです。ぜひ、臆せずに門を叩いてみてください。私たちとともに、未来の医療を築き上げていきましょう。
