電子カルテの保存期間と医療機関における文書保管について

電子カルテの保存期間と医療機関における文書保管について
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目次

医療機関においては様々な文書が取り交わされます。 そういった文書の中で、医療機関での保管が義務付けられているものがあります。 原紙保管が基本となりますが、電子カルテをはじめとしたシステムが普及する中、文書保管についてのルールにも変化が見られます。

1.医療機関が保管すべき文書

まず、医療機関が保管すべき文書とは何でしょうか。 国が法令上作成保存を求めている書類は以下のとおりです。

  • 医師法(昭和23 年法律第201 号)第24 条に規定されている診療録
  • 歯科医師法(昭和23 年法律第202 号)第23 条に規定されている診療録
  • 保健師助産師看護師法(昭和23 年法律203 号)第42 条に規定されている助産録
  • 医療法(昭和23 年法律第205 号)第46 条第2 項に規定されている財産目録、同法第51 条の2 第1 項に規定されている事業報告書等、監事の監査報告書及び定款又は寄附行為、同条第2 項に規定されている書類及び公認会計士等の監査報告書並びに同法第54 条の7 において読み替えて準用する会社法(平成17 年法律第86 号)第684 条第1項に規定されている社会医療法人債原簿及び同法第731 条第2 項に規定されている議事録
  • 医療法(昭和23 年法律第205 号)第21 条、第22 条及び第22 条の2 に規定されている診療に関する諸記録及び同法第22 条及び第22 条の2 に規定されている病院の管理及び運営に関する諸記録
  • 診療放射線技師法(昭和26 年法律第226 号)第28 条に規定されている照射録
  • 歯科技工士法(昭和30 年法律第168 号)第19 条に規定されている指示書
  • 薬剤師法(昭和35 年法律第146 号)第27 条に規定されている調剤済みの処方せん
  • 薬剤師法第28 条に規定されている調剤録
  • 外国医師等が行う臨床修練に係る医師法第17 条等の特例等に関する法律(昭和62 年法律第29 号)第11 条に規定されている診療録
  • 救急救命士法(平成3 年法律第36 号)第46 条に規定されている救急救命処置録
  • 医療法施行規則(昭和23 年厚生省令第50 号)第30 条の23 第1 項及び第2 項に規定されている帳簿
  • 保険医療機関及び保険医療養担当規則(昭和32 年厚生省令第15 号)第9 条に規定されている診療録等
  • 保険薬局及び保険薬剤師療養担当規則(昭和32 年厚生省令第16 号)第6 条に規定されている調剤済みの処方せん及び調剤録
  • 臨床検査技師等に関する法律施行規則(昭和33 年厚生省令第24 号)第12 条の3 に規定されている書類
  • 歯科衛生士法施行規則(平成元年厚生省令第46 号)第18 条に規定されている歯科衛生士の業務記録
  • 高齢者の医療の確保に関する法律の規定による療養の給付の取扱い及び担当に関する基準(昭和58 年厚生省告示第14 号)第9 条に規定されている診療録等
  • 高齢者の医療の確保に関する法律の規定による療養の給付の取扱い及び担当に関する基準第28 条に規定されている調剤済みの処方せん及び調剤録
参照:「「診療録等の保存を行う場所について」の一部改正について」(平成25 年3 月25 日付け医政発0325 第15 号・薬食発0325 第9 号・保発0325 第5 号厚生労働省医政局長・医薬食品局長・保険局長連名通知。)

医師から歯科衛生士等まで対象が多岐に渡りますが、非常に多くの文書保管が規定されています。 本記事にて全てを取り上げることは難しいため、電子カルテに関わる文書に絞ってご紹介します。

2.診療録と保存期間について

電子カルテに最も関わる文書はやはり「診療録」ですね。 診療録は、医師が診療時に必ず記載することが求められます(医師法第24条第1項) 診療録の内容には以下の項目と定められています。

  • 一 診療を受けた者の住所、氏名、性別及び年齢
  • 二 病名及び主要症状
  • 三 治療方法(処方及び処置)
  • 四 診療の年月日
※医師法施行規則第23条より。

カルテの保存期間は5年

診療録を一般的な言い方にすれば、「カルテ」ですね。 診療録(カルテ)の保存期間は5年間と義務付けられています(保険医療機関及び保険医療担当規則第9条)。 この「5年間」には注意が必要で、上記担当規則第9条では、 "保険医療機関は、療養の給付の担当に関する帳簿及び書類その他の記録をその完結の日から三年間保存しなければならない。ただし、患者の診療録にあっては、その完結の日から五年間とする。" とされています。 診療日から5年ではなく、「完結の日」から5年間となります。 「完結の日」については明確な定義がありませんが、そのまま理解するならば一連の診療が完了した日、でしょうか。 これでは中々過去カルテを処分するわけにはいきませんね。

3.電子カルテにおける文書保管

電子カルテの場合、診療録は電子カルテ上で作成・記録を実施します。 そのため、「原紙」が存在せず、電子カルテ自体が保管されている文書そのものと言えます。

厚生労働省が規定するガイドライン(医療情報システムの安全管理に関するガイドライン第5版)に則って電子カルテを運用すれば、紙カルテでの運用と比較して、紙で保管する文書の量が大幅に削減できます。

しかし、前述の通り、診療録以外にも「療養の給付の担当に関する帳簿及び書類その他の記録をその完結の日から三年間保存」しなければなりません。 どのような記録が上記に該当するのでしょうか。

医療法施行規則第20条の十には、下記のように定められています。 "診療に関する諸記録は、過去二年間の病院日誌、各科診療日誌、処方せん、手術記録、看護記録、検査所見記録、エックス線写真、入院患者及び外来患者の数を明らかにする帳簿並びに入院診療計画書とする。" 実際には上記以外にも、紹介状や同意書といった文書も対象と見なされています。 千葉県がんセンターの「診療記録記載マニュアル」を参照しますと、下記が対象とされています。

  • ①手術記録
  • ②麻酔記録
  • ③検査記録
  • ④看護記録
  • ⑤剖検記録
  • ⑥栄養指導記録
  • ⑦リハビリテーション記録
  • ⑧薬剤管理指導記録
  • ⑨退院時要約
  • ⑩紹介状、診療情報提供書
  • ⑪診断書、証明書
※千葉県のHPから参照できます。

ほとんどは電子カルテに記録を記載できそうですが(電子カルテにもよります)、他院から紹介状や、患者の直筆サインがある同意書などが問題となりそうです。 スキャンして取り込めばよいと考えるかもしれませんが、電子的なデータは編集が容易なため、そのままでは原本と認められません。 詳しくは次項で説明していきます。

4.電子署名について

では、スキャン文書の取扱を見ていきます。 問診票や、患者が持参する同意書や紹介状等は、自院の電子カルテや部門システムで作成したものではありません。 これらはまさしく「原紙」が存在していますので、電子カルテでの記録とは異なります。 前述の通り、単にスキャンしてPDF等データ化した文書は、電子カルテに保存したとしても原紙とは認められません。 よって、原紙を別途保管しておく必要があります。
※単にスキャンしただけのデータが原本と認められない根拠は後述します。

折角電子カルテ化したにも関わらず、紙の保管が残ることにがっかりされるのではないでしょうか。 実は、紙保管を不要にする方法があります。 それが「電子署名」および「タイムスタンプ」です。

スキャンした文書のような電子文書は、紙の文書とは異なり、編集が容易な上、改ざんの有無が分かりづらいものです。 そこで、「誰が作成したか」「改ざんが無いか」を明確にするための技術が「電子署名」および「タイムスタンプ」です。 「署名」「スタンプ」ですので、簡単に言えば電子版ハンコでしょうか。 もちろん、単なるハンコではなく、公的に認められたものを使用しなければなりません。 この電子署名・タイムスタンプを利用すれば、スキャン文書を原紙として電子的に保管することが認められます(医療情報システムの安全管理に関するガイドライン第5版P91-93)。 逆に言えば、電子署名・タイムスタンプがないスキャン文書は原紙とは認められないということです。 電子署名・タイムスタンプのおおまかな流れは下記です。

  • 1.院内の情報管理者が専用のICカード等で認証を行う
  • 2.上記認証が成功すると、スキャン文書に電子署名とともにタイムスタンプが付与される
  • 3.上記スキャン文書を電子カルテに保存する

電子署名が「誰が作成したか」を、署名時刻を担保するタイムスタンプが「改ざんが無いか」を証明します。 電子署名においては、厚生労働省の定める準拠性監査基準を満たす保健医療福祉分野PKI 認証局若しくは 認定特定認証事業者等の発行する電子証明書を用いなければなりません(医療情報システムの安全管理に関するガイドライン第5版P92-93)。 また、電子署名を導入した運用については、別途運用管理規定の作成も必須となります(医療情報システムの安全管理に関するガイドライン第5版P127-128)。

5.電子カルテと電子署名

電子署名は原紙保管が不要となり、大変便利なものです。 しかし、データ自体は医療機関にて保管をしなければなりません。 サーバやNASといった機器に保存して管理するのが一般的でしょうか。

電子カルテを導入しているならば、電子カルテに電子署名が付与されたPDFファイルを保存する手があります。 電子署名が付与されていても、PDFはあくまでPDFですので、通常のPDFファイル同様に電子カルテへ保存を行うことができます。 ※PDFファイルを保存できるかどうかは、電子カルテによって異なります。

より便利な電子カルテでは、電子カルテに付随する機能として、スキャン文書に電子署名・タイムスタンプを付与することができます。 これであれば、医療機関自身で電子署名サービスの契約をする必要がありませんし、電子署名・タイムスタンプが付与されたPDFファイルを直接電子カルテにアップロード可能です。 タイムスタンプ自体は電子カルテメーカーも認定業者のサービスを利用しているため、スタンプ数に応じた費用が発生する場合が多いようです。 導入される場合には、電子カルテに取り込む書類と、紙のまま保管する書類の整理が必要となるでしょう。

注意点としては、病院向け電子カルテでは電子署名・タイムスタンプが一般的な機能になりつつありますが、診療所向け電子カルテでは必ずしも一般的な機能ではありません。 電子カルテを新規導入する、または入替えをするのであれば、電子署名・タイムスタンプや文書保管についても留意しておくとよいかもしれませんね。

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