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医療従事者が知っておきたい 抗がん剤曝露のリスクと安全対策

公開日:2025年12月10日


抗がん剤は、長年にわたりがん治療の中心的な役割を担ってきました。多くの患者さんにとって希望となる一方で、医療従事者が日々直面している「抗がん剤曝露」という見過ごされがちなリスクがあることをご存じでしょうか。本コラムでは、医療現場での抗がん剤曝露の実態とその安全対策の重要性について、実際の事例を交えながらご紹介します。

1. 抗がん剤曝露がもたらすリスクとは?

抗がん剤はがん治療に欠かせない薬剤ですが、取り扱う医療従事者にとっては健康被害を引き起こす可能性のある「ハザーダスドラッグ(Hazardous Drug)」に分類されます。

    ハザーダスドラッグとは、以下の特性を持つ薬剤を指します。
  • ・発がん性
  • ・催奇形性(胎児に形態異常を生じさせる作用)
  • ・生殖毒性
  • ・低用量での臓器毒性
  • ・遺伝毒性

これらの特性を持つ薬剤、またはそれに類似した構造を持つ新薬が該当します。抗がん剤はすべてこのハザーダスドラッグに位置づけられています。
米国国立労働安全衛生研究所(NIOSH)は、「医療現場でハザーダスドラッグを使用したり、そのそばで作業したりすると、皮膚発疹、不妊症、流産、先天性異常、さらには白血病やその他のがんを発症する恐れがある」と警告しています(※1)。

    そのため、抗がん剤を取り扱う際には、以下のような対策が推奨されています。
  • ・安全キャビネット内での調製
  • ・閉鎖式薬物移送システム(CSTD)の使用
  • ・ガウンテクニックの徹底
  • ・作業手順の策定と周知
  • ・曝露時の対処方法の策定と教育
  • ・分解薬を用いた清掃

これらの対策を適切に実施することで、抗がん剤を取り扱う医療従事者の健康リスクを最小限に抑えることが可能であるといわれています(※2)。


清掃イメージ 清掃イメージ

2. 医療現場の曝露対策の現状と課題

しかし、医療現場では抗がん剤曝露に関する課題がいまだに多く存在しています。
以下は、現場で見られる課題の一例です。

ケース①:治療件数が少なく対策が取れない

ある外来化学療法を行っている施設では、抗がん剤治療の実施件数が少なく、抗がん剤の調製は、週に2回程度しかありません。そのため、対策の必要性が上層部に伝わりづらく、専用の分解薬導入を検討しましたが、見送られました。現在は水拭きとアルコール拭きで対応していますが、水拭きでは拭き残しがあることがガイドラインでも指摘されており、スタッフは不安を抱えています。

ケース②:全薬剤・全件にCSTDの使用許可が下りない

閉鎖式薬物移送システム(CSTD)は、抗がん剤の曝露リスクを低減する有効な手段として広く知られており、多くの医療施設で導入済み、または導入が検討されています。
ある施設ではCSTDを導入しているものの、使用は一部の薬剤に限られていました。薬剤師は「本来であれば、すべての薬剤・すべての症例に使用したいが、予算の制約があり実現できていない」と話していました。

ケース③:対策が不十分な現場

ある施設で抗がん剤曝露調査を実施したところ、外来化学療法室の横のトイレで抗がん剤の残存が確認されました。この施設では薬剤部にオゾン水生成器を導入していましたが、外来化学療法室とは離れており使用ができない環境でした。そこで新たに別の分解薬を購入しようとしましたが、上層部の理解が得られず導入ができませんでした。

ケース④:曝露調査の実施が困難

別の施設では、安全キャビネットやCSTDを導入しているものの、薬剤を移動する際や薬剤投与時の対策が不十分だと薬剤師は感じています。曝露状況を把握するための調査を行いたいものの、費用の問題で実施ができていません。

これらの施設では、看護師や薬剤師、清掃スタッフ、さらには利用者の方が抗がん剤曝露のリスクに晒されている状況が続いています。

3. 見えにくいリスクにどう対応するか?

医療現場では、「ある程度の曝露はやむを得ない」という風潮が残っているように思われます。「年間〇μg以上曝露すると危険」といった定量的な基準が設けられていないことや曝露状況を可視化できないことも、この風潮を放置する一因となっています。

しかし、基準がないからといって安心してよいわけではありません。むしろ、基準がないからこそ、医療機関が主体的にリスクを認識し、対策に取り組む必要があると考えます。

4. 抗がん剤曝露対策で得られるメリット

清掃イメージ

抗がん剤曝露対策の見直しには、時間や手間、そして一定の費用が伴います。しかし、その対価として得られる「安全」は、医療従事者にとって代えがたい価値を持つものです。

安全がもたらすメリット

①職員の健康を守る

医療従事者が安心して働ける環境を整えることは、健康被害の予防につながります。労働安全衛生法に基づく化学物質のリスクアセスメントの観点からも、病院経営者には職員の安全を確保する責任があります。曝露リスクを低減する取り組みは、法令遵守だけでなく、職員の信頼を確保するために欠かせない施策です。

②パフォーマンスの向上

安全性が確保された職場では、医療従事者が不安なく業務に集中できます。安心して働ける環境は、仕事の質や効率の向上につながり、結果として患者さんやご家族へのサービスの質も高まります。

③離職率の低下

安全対策への真摯な取り組みは、職員の安心感と満足度を高めます。それにより、職場への定着率が向上し、離職防止にも効果を発揮します。人材の流出を防ぐことは、医療機関の安定運営にとって極めて重要です。

5. 曝露対策と人材確保

医療スタッフたち

近年、医療現場では深刻な人手不足が問題となっています。例えば、2025年には看護師が約15万人不足すると予測されています。このような状況下で、苦労して確保した優秀な人材を手放さないためにも、職場環境の改善が重要です。

安全が人材確保につながる理由

①職場の魅力向上

経営幹部が安全管理に真摯に取り組む姿勢を示すことは、スタッフに安心感を与えるだけでなく、求職者にとっても「信頼できる職場」という印象を与え、企業の魅力向上につながります。

②病院機能評価でのアピール

安全対策を徹底することは、医療機関としての信頼性を高めるとともに、病院機能評価においても評価される要素となります。

6. まとめ|医療従事者を守るための第一歩

医療スタッフ

抗がん剤曝露対策に取り組むことは、医療従事者の健康を守るだけでなく、職場環境の改善や人材の定着、さらには医療機関のブランド価値向上にも寄与します。
安全対策を通じて、スタッフ間の信頼関係が深まり、チームワークの強化につながります。加えて、外部からも「安全管理が徹底された医療機関」として高い評価を得ることができます。
医療現場の未来を守るためにも、今こそ抗がん剤曝露対策に本格的に取り組むべき時ではないでしょうか。

【出典】
※1 fukusayoutaisaku4.pdf
※2 発がん性等を有する化学物質を含有する抗がん剤等に対するばく露防止対策について
   (◆平成26年05月29日基安化発第529002号)

医療現場の安全対策に。
HDプロテクト(スプレータイプの抗がん剤分解溶液)

抗がん剤曝露対策の一環として、医療現場の安全を支える製品です。
詳しくは製品ページをご覧ください。導入のご相談は、 問い合わせフォームより、お気軽にお問い合わせください。

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